健全な肉体に狂気は宿る―生きづらさの正体

  • 著者 内田 樹 (著), 春日 武彦 (著)
  • 価格 ¥ 760
  • お好み度 ☆☆☆☆

偶然聞いていたラジオ番組で、内田樹(ウチダタツル)氏のことを知りました。
世の中の諸事情を、私はまったく気づかなかった(考えたこともなかった)方向から
内田氏独自の見方で説いていかれるので、読んでいて興味がつきません。
しかも、腑に落ちる言葉に出会うことが多いです。
内田氏の著書は、これまで数冊読みました。

今回の著書は、精神科医春日武彦氏と内田氏との対談形式です。
全六章にわかれていて、今回も、内容は多岐にわたっています。
家族論、自分探し、個性、身体に聞け(!)など。
個人的には、「現在の世の中で健全に生き残っていくためには・・・」
ということがテーマのように感じました。
興味のある章から読み始めても、大丈夫なつくりだと思います。


特に私が好きだった部分は、第2章「自分探し」はもうやめよう の章です。
この章のキーワードは、
・取り越し苦労を止めよう(対策を講じていた自分に報いたくなり、最悪の事態を願うようになる。)

・自分だけの秘密を持つ
(心は二重底 自分の世界をきちっと持てることの大切さ)

・自分探しは自殺行為
(自分自身に対する無知こそが創造の泉。自分についてわからないことを、無理に出来合いのフレーズで粗雑に言語化するって、自殺に類した行為ですよ。最終的に、言語化・意識化できないのが人間なのだから)

・中腰で待ってみよう
(時間というファクターは想像以上に重い。決断できない状況でも、それをある程度時間的に維持することができたら、とても解決できないようにみえた問題が、一気に決定し、合意がなることが間々ある。)

などです。
さらにこの章のなかで、
私がぐわーんと衝撃を受けたのは、「ロングスパンとショートスパンのネットワーク」という部分でした。それは、長年の私の悩みに対する一つの答えが書かれていたからです。

ビジネスはショートスパンで結果を出す(が出る)もの。それに対して、数十年単位というロングスパンで形成していく作業の代表が「家庭」「育児」。ロングスパンの仕事は、自分の決断や選択の正体がなかなか出ず、社会の中における自分の立ち位置や能力がよみみえてこない。だから、私は誰?と不安になってしまう。世の中全体がすぐに結果を求めるショートスパン化している中では、なおさら。
という内容でした。
とっても腑におちました。
私は、家事や家族のことを考えることがとても好きなのですが、過去に、なぜかそれだけだと行き詰まってしまうことがありました。仕事をしていたほうが、バランスがとれるのかな・・・と思いつつも、家庭にいるだけでは何と何のバランスが取れないのかがずっとわからず、仕事と家庭の間で悩んでいました。
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自分の心の中をのぞいても、のぞいても答えが見つからない感じ。
そして、ようやく見つけた答えが、「仕事をすることはすごく大変だけれど、でも、家事より楽」という気持ちだったのです。何が、「楽」と思ったのか、いままでぼんやりしか見えていなかったことが、この本をよんで気づきました。「結果が早く出る」ってとても気持ちのいいこと・ある意味楽なことでもあるのですね。
ちなみに、自然や動物に触れたり育てたりすることで、時間に触れることを内田氏はすすめています。

「現代人はみんな、時間が経つこと、時間に触れることに恐怖を持っているんじゃないでしょうか」という春日氏の言葉が印象的でした。
体調を崩したり大事なものを犠牲にしたりというリスクを十分感じつつも、
どんどん世の中が効率化され、スピードが上がっていき、もっと早く!という方向にすすんでいるのは
こんな背景と関連があるのでしょうか。